【シアンの本棚】地球科学への誘い
眞鍋淑郎氏のノーベル賞受賞により、にわかに地球科学が脚光を浴びている。氏の貢献は主に大気と海洋のエネルギー循環モデルによる気候変動の把握であるが、その背景には膨大な観測データを基にした現象の把握と地球史の解読がある。
46億年の地球史のなかで、地球上で観測できる最古の地層はカナダにある約40億年前のものであり、それに比べると日本列島における最古の地層は4億年前のものなので、かなり新しい。いっぽうで、日本は地震と火山の巣窟であり、大陸と海洋の接点である。地球の精緻で複雑なメカニズムを現在進行形で学ぶ上ではうってつけの環境ともいえる。
入門編
そこで、まずは平 朝彦、国立研究開発法人 海洋研究開発機構共著の「カラー図解 地球科学入門 地球の観察――地質・地形・地球史を読み解く」をご紹介しよう。
『カラー図解 地球科学入門 地球の観察――地質・地形・地球史を読み解く』(平 朝彦,国立研究開発法人 海洋研究開発機構)|講談社BOOK倶楽部 (kodansha.co.jp)
本書は豊富な写真や動画を使い、私たちが日々目にしている日本列島を形作る山や海の構造について直感的に理解できる。
気候変動にご興味がある向きには、横山 祐典著「地球46億年 気候大変動」もよいだろう。
地球46億年 気候大変動 | ブルーバックス | 講談社 (ismedia.jp)
地球上で起きている循環
エネルギーにせよ炭素にせよ水にせよ、あらゆるものは地球上で循環している。植物が空気中の二酸化炭素を吸収し、それを動物が利用することで二酸化炭素を大気中へ排出する循環や、水の蒸発と降雨による循環などが一例である。
少し趣旨は変わるが、実は地球では電気の循環というものも起きている。グローバルサーキットあるいは全地球回路と呼ばれるもので、大地と大気が雷を通じて電子をやり取りする、壮大な回路網が地球には存在するのだ。手前味噌で恐縮だが、筆者が夏休み子供科学インターネット相談で語ったうんちくを紹介しよう。
モデルをつくるための観測
気候変動はこのような循環の作用であり、したがって地球を理解し将来を占ううえで重要なのが、観測とモデルづくりである。
過去の記録は、残された痕跡からしか復元できない。したがって、その時空間的な分解能は非常に粗い。つまり、数百年から時には数万年間を超える歴史の空白を、ほんの数点の資料で埋めねばならないこともある。大雑把な観測であってももちろんそれを行う意義はあり、特に遠い過去を知るには他に方策はない。その一方で、これから起きる現象については人類の準備次第によっては非常に高精度に観測できる。
たとえば、私たちは日々の天気予報で気象衛星ひまわりからの画像を目にしている。太平洋上で発達する台風の様子に気をもむことができるのは、衛星がこれを宇宙から見てくれているからだ。人工衛星による広域かつ高分解能な観測が、詳細な気象モデルによる高精度な気象予報を可能としている。
これに対し、人工衛星のない20世紀中盤までは、太平洋上での気象を知るすべはほとんどなかった。せいぜい船舶によるまばらな点の記録だけである。運が悪ければ台風の雲が陸地にかかるその時まで人々はその襲来を知る由もなかったし、現にそのために生じた災害も存在する。細かな観測がいかに大切か、という話から、地球観測に関する入門書として岩田 勉著、宇宙航空研究開発機構(JAXA)編「宇宙から地球を診断する」を紹介しよう。
宇宙から地球を診断する 【SCC Books】| 株式会社SCC (scc-kk.co.jp)
モデルを動かす計算機科学
こうして観測された膨大なデータから、地球のモデルが組み立てられる。モデルによっては計算量が非常に大きくなるため、スーパーコンピュータの力を借りなければいけない。
ところで、みなさんはスーパーコンピュータとは何かご存じだろうか。我が国には地球シミュレータ、京、そして京の後を継いだ富岳と歴代の世界最高性能のスーパーコンピュータが存在する。しかし、単なるパソコンとスパコンの違いを説明できる人は案外少ないのではなかろうか。
そこで最後に、金田 康正著 「スパコンとは何か」を紹介して本稿の筆を置くとしよう。
スパコンとは何か 1位か2位か、それが問題か – ウェッジブックス – (ismedia.jp)
かように地球科学とは、太鼓の歴史を紐解き、現在起きている出来事を膨大な機材を用いて観察し、モデルを用いた計算によってこれを説明する営みなのである。本稿の筆者はそのなかの観測、それもレーダを利用した観測の研究者であるが、この分野にご興味を持っていただけたら幸いである。