新型コロナの株と種の話

『ロンドンは新型コロナウイルス変異種が国内で制御不能となり、「重大インシデント」を宣言』というニュースが話題になっています。

英ロンドンが重大インシデント宣言、コロナ感染「制御不能」(REUTERS)

「変異種」についてのまとめ記事は、例えば以下のようなものがあります。

新型ウイルスの変異種、いまわかっていること(BBC NEWS JAPAN)

変異「種」?それとも変異「株」?

さて、最近よく聞く「変異種」という単語は、もとの英語版ニュースにおける “new variant/strain” の和訳として使われているようです。しかしこの訳は不適切で、正しくは「変異株」だと前々から指摘されています。

「変異種」と「変異株」については、Twitterに秀逸な例えがありましたのでご興味ある方はどうぞ。

大雑把にいうと、変異した遺伝子を含めた遺伝的背景が安定に子孫に引き継がれる一群が変異株、その蓄積だけでなく生態や生殖等も大きく異なるようになると種 (しゅ) になり得ます。ただ、実際には、文脈や分類目的によって株も種も複数の定義があり、その線引きは簡単ではないようです。

『種の起源』から約160年……まだ「種」が定義できないってマジ?(講談社 ブルーバックス)

話題の変異ウイルス (VOC 202012/01と呼ばれています) は、言ってしまえばオリジナルから多少配列が変わっただけであり、「変異株」と呼ぶのが適切でしょう。ちなみに、新型コロナウイルスと呼ばれるウイルス (SARS-CoV-2) 自体は、いわゆる普通のコロナウイルスが直接変異して発生したものではないと考えられており、「普通のコロナウイルスの変異株」ではありません。そのゲノム配列はコウモリコロナウイルスRaTG13のそれとよく似ていることから、先祖はコウモリウイルスで、約40-70年前に分岐した可能性が高いようです。

Evolutionary origins of the SARS-CoV-2 sarbecovirus lineage responsible for the COVID-19 pandemic(nature)

新型コロナの変異はワクチンに影響する?

今回報道されている新型コロナの変異はワクチンに影響するのでしょうか?

つい最近の論文 (※) で、イギリスの変異型に対してもファイザー/BioNTechのワクチンが有効だと報告されました。

Neutralization of N501Y mutant SARS-CoV-2 by BNT162b2 vaccine-elicited sera(bioRxiv)

※正式版ではないプレプリントということに注意

また、ファイザー/BioNTechのワクチンは「mRNAワクチン」という種類のものですが、このタイプはウイルス変異に合わせて薬側の設計を変更するのも比較的容易だと言われています。

各国で開発中のワクチンってどんなもの?(CYANのブログ記事)

変異株の動向については引き続き国際的な監視が必要ですが、それはさておき過度に悲観せず平静を保つことが大事なようです。