飲む新型コロナ治療薬2:パクスロビドのメカニズム
先日の投稿で経口コロナ治療薬モルヌピラビルを取り上げましたが、別の経口治療薬パクスロビド(Paxlovid)の実用化も進んでいます。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC121XZ0S1A111C2000000/ (日本経済新聞)
こちらの薬はコロナ重症化を89 %防いだとのことで、モルヌピラビルよりもさらに高い効果が期待されています。
https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizers-novel-covid-19-oral-antiviral-treatment-candidate (Pfizer website)
パクスロビドは、有効成分として「PF-07321332」と「リトナビル」という2種類の物質を含みます。
PF-07321332とは
PF-07321332はプロテアーゼ阻害剤という種類の物質です。
コロナウイルスは、スパイク (S) やエンベロープ (E) など複数のタンパク質が組み合わさってできています。つまり、ウイルスが増えるためには、まずこれらの「部品」が作られる必要があるということです。部品は一つ一つが個別に作られるわけではなく、最初は全部が繋がった大きな塊の状態で生み出されます。買ったばかりのプラモデルをイメージしてください。
コロナウイルスが持つ3CLプロテアーゼという酵素は、この塊を部品ごとに切り分けます。プラモデルを切り離すハサミです。PF-07321332は3CLプロテアーゼの機能発揮の中心部分、例えるならハサミの刃元にすっぽり入ってその動きを止めてしまいます。すると、もはや部品を切り出すこともできなくなり、ウイルスの増殖も止まってしまうのです。
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abl4784 (Science)
リトナビルとは
一方リトナビルは、実は昔からよく知られている物質です。
肝臓にはさまざまな薬剤を分解(代謝)する酵素の一種であるCYP3Aが存在しますが、リトナビルはCYP3Aを阻害します。これによりPF-07321332の分解速度が遅くなり、その血中濃度が高く維持されるようになって効果が増強されるのです。これら二つの成分のコンビネーションによってパクスロビドは高い抗ウイルス作用を発揮していると考えられています。
「飲み薬」のコロナ治療薬があると何が良いのかについては、前回の記事「飲む新型コロナ治療薬:モルヌピラビルのメカニズム」をご覧ください。