【新型コロナワクチン】組換えタンパク質ワクチン、ヌバキソビッド (Nuvaxovid) とは

先月、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) に対するワクチンの一種、組換えタンパク質ワクチンとしてヌバキソビッド (Nuvaxovid) が日本で承認されました。また噛みそうな名前ですね。米Novavax社が創製し、日本では武田薬品工業が製造を担います。これで国内承認済みのコロナワクチンは4例目です。

https://www.takeda.com/ja-jp/announcements/2022/Nuvaxovid/

ヌバキソビッドの中身

これまでに承認されていたmRNAワクチン (過去記事リンク) は、コロナウイルスのスパイクタンパク質 (Sタンパク質) の設計図であるmRNAが主成分であり、そのmRNAをもとに細胞内でSタンパク質が生成されて免疫を誘導するというメカニズムでした。

一方ヌバキソビッドはSタンパク質を直接含んでいます。また、ワクチンの効き目を高める成分としてMatrix-M1という物質が添加されています。

Sタンパク質の作り方

Sタンパク質はウイルス表面に存在する分子です。この分子が体内に入ると、からだが持つ免疫システムはこれを敵と認識して排除します。このとき得られたSタンパク質の情報は免疫細胞に記憶されます。そして後に本物のコロナウイルスが侵入してきた際には、効率的にSタンパク質ごとウイルスを検知・迎撃できるようになるのです。

mRNAワクチンの主成分であるmRNAの製造は、大きな釜の中で試薬を化学反応させて行われます。しかし、複雑で壊れやすい「生もの」であるタンパク質は通常、そのような化学的方法で合成するのが困難です。そこでSタンパク質の場合、培養細胞の力を借りて作られます。

用いるのはSf9細胞というヨトウガ由来細胞です。この細胞は、人工的にタンパク質を生産(発現)させるためのホストとして世界中でさまざまな研究に利用されています。

まず、Sタンパク質の遺伝子を人工的に導入したバキュロウイルス(昆虫ウイルス)をつくります。それをSf9細胞に添加し、大きなタンクで一緒に培養します。するとバキュロウイルスの働きによってSf9細胞内で大量のSタンパク質が産生されます。回収された細胞は破砕され、そこからSタンパク質が抽出・精製されます。このように人工的に作られるタンパク質を「組換え(リコンビナント)タンパク質」といいます。

https://www.nature.com/articles/s41467-020-20653-8

アストラゼネカのAAVワクチンのようなことをSf9細胞で行っているかんじですね (過去記事リンク)。

Matrix-M1とは

Matrix-M1は、Sタンパク質のように直接免疫を誘導する物質ではありませんが、免疫の応答を増強する作用があります。ワクチンの効果を補助する物質をアジュバント (Adjuvant) と呼びます。ラテン語の”adjuvare (助ける)”が語源とのこと。

Matrix-M1のベースはサポニン(配糖体)という物質です。キラヤ(Quillaja saponaria)という南米産の木の樹皮から抽出されます。

https://www.novavax.com/science-technology/matrix-m-adjuvant-technology

余談ですがMatrix-M1の大量製造は、東京に本社があるAGCのグループ会社が担っているそうです。

Asahi Glass Companyがアジュバント?と思いきや、AGCは医薬品の製造事業にも力を入れているとか。最近医薬品業界はこうした異業種とのコラボが盛んです。

https://www.agc.com/news/detail/1200823_2148.html

ヌバキソビッドの有効性・安全性・利点

ヌバキソビッドは、米国とメキシコで実施された3万人規模の臨床試験(18歳以上が対象)で90.4%の発症予防効果が得られるなど、高い有効性と安全性を示しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_takeda.html

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2116185

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/22/04/19/09388/

また、このワクチンは既存のmRNAワクチンと比較して、冷蔵状態でも長期に安定性を保つことができます。そのため一般的な医薬品と同様の供給体制を使った輸送・保管が可能であり、高度なサプライチェーンが整っていない国や地域でのワクチン普及にも貢献できると期待されます。