映画の中のオペラ(前編)
ミュージカル映画は以前から人気がありますが、オペラも実は映画となっているのはご存知でしょうか。特に、フランコ・ゼッフィレッリ監督の『椿姫』(1985)などは名作として名高く、中学高校の授業などでご覧になった方も多いかもしれません。
カヴァイアンスカ主演の『トスカ』(1973)などは、実際に舞台のロケ地で撮影しています。普段オペラは観客席から遠い舞台上で、作り物の大道具を背景に上演されます。しかし、このように映画の形で上演されることで、オペラの世界へのよりリアルな没入感を味わうことができます。
特に、実際にウィーンの街でロケが行われた映画『ウィーン気質』(1971)はとてもお洒落で、内容も楽しいのでお勧めです。このオペレッタの中で有名な曲〈ウィーン気質 Wiener Blut〉は、ウィーンのホイリゲ(居酒屋)などへ行くと、必ずといってよいほど演奏されています。
https://www.c-you.jp/cineopera/wienerbult.html
ただし、今回はこのオペラ映画ではなく「映画の中のオペラ」ということで、映画に登場するオペラの効果を2回に分けて見ていきたいと思います。
1. BGMとしてのオペラ
・『テルマエ・ロマエ』(2012)/『テルマエ・ロマエⅡ』(2014)
ヤマザキマリ作のマンガが映画になり、大ヒットしましたね。古代ローマの場面では、イタリアの作曲家ヴェルディとプッチーニのオペラのアリアがいくつもBGMとして使われています。このように、オペラがBGMとして使われるのはCMやテレビなどでもよく見られることです。
しかし、この映画では、オペラはただBGMとしての役割しか果たしていないのか、というとそうではありません。
例えば、『テルマエ・ロマエ』で主人公ルシウスが古代ローマから日本へタイムスリップする場面では、ヴェルディ作曲のオペラ《アイーダ》の第3幕〈裏切り者め!〉が3度流れます。オペラではこの場面が決定打となり主人公たち二人は悲劇のラストへと突き進んでいきますが、そのドラマチックな音楽が水の渦に巻き込まれながら時空を超えるルシウスのドラマを盛り上げています。
さらに、ここではオペラ歌手(役)が、突然起こるルシウスのタイムスリップにあわてて対応するなど、コメディックな場面が挟まれています。それによって、逆にオペラの音楽の荘重さが大げさなものに思われて笑ってしまいますし、この場面の存在が作品全体のコメディ性を強調しています。
なお、『テルマエ・ロマエⅡ』では、同じくルシウスのタイムスリップの場面を中心にこの歌手が登場しましたが、曲は色々なオペラのアリアが使われ、登場人物が増えるなど、前作よりも演出のヴァリエーションがありました。
テルマエ・ロマエ
2. オペラ歌手になる夢
・『偉大なるマルグリット Marguerite』(2015)
・「マダム・フローレンス! 夢見るふたり Florence Foster Jenkins』(2016)
・『フィガロに恋して Falling for Figaro』(2020)
どちらも、実在のアメリカ人女性ジェンキンス氏(Florence Foster Jenkins:1868〜1914)を主人公のモデルとした映画です。ジェンキンス氏は、音痴であるにも拘らずソプラノ歌手としてコンサートを開きつづけ、最終的にはかの有名なカーネギー・ホールでも歌ったという人物。逆にその個性が観客を魅了しました。両作品は同じ人物を扱っているとはいえ「なぜジェンキンス氏が歌い続けたのか」という解釈が異なり、その描写の違いを楽しめます。
なお、近年上映された『フィガロに恋して Falling for Figaro』(2020)は、金融会社で働くキャリアウーマンが周囲の反対にも拘わらず、一念発起してオペラ歌手を目指す話。こちらはジェンキンス氏とは異なり、主人公に歌の才能があるという設定ですが、主人公の自己実現のための夢=オペラ歌手という点では、これらの映画と共通するものがあります。
「オペラは普段中々触れる機会のない特別な世界のものであり、歌手になるのは特殊な才能と発声法が必要」という一般的なイメージが、その困難を乗り越えて夢を叶えようとする主人公の姿に観客を惹きつけるのかもしれません。
偉大なるマルグリット
http://www.grandemarguerite.com
マダムフローレンス
フィガロに恋して